【冒険小説】鷲は舞い降りた~ジャック・ヒギンズ

1975年にイギリスの巨匠ジャック・ヒギンズが書いた冒険小説「鷲は舞い降りた(The Eagle has landed)」。クルト・シュタイナ中佐率いるナチスドイツの空挺部隊がイギリスに潜入しイギリス首相チャーチルを誘拐しようとする作戦を描いたフィクションである。

第二次世界大戦以来、ナチス・ドイツといえば「悪の権化」というイメージ一色だった時代にイギリス人の視点でナチス・ドイツの軍人を主人公としたことはおおいに関心を買った。物語そのものがたいへん秀逸だったためアメリカ・イギリスにおいて発売以来6か月もの間ベストセラーであり続け、当時の連続1位記録を塗り替えた。

物語は著者のジャック・ヒギンズがイギリスの片田舎、スタドリコンスタブルに取材で訪れた際、古い墓地の古びた墓標に「1943年11月6日に戦死せるクルト・シュタイナ中佐とドイツ降下猟兵13名、ここに眠る」と書かれているのを目にする。

「ドイツ軍の墓?なんじゃこりゃ?」と思ったヒギンズは不思議に思い、「クルト・シュタイナ中佐とドイツ降下猟兵13名」についての調査を開始するのだった。

時は30年ほどさかのぼった1943年、幽閉されたイタリアのムッソリーニをオットー・スコツェルニーが指揮する空軍降下猟兵部隊と親衛隊特殊部隊が救出したことに狂喜し、同じような落下傘部隊でイギリスの首相チャーチルを誘拐することを思いつく。そんなヒトラーの無茶苦茶な指令を受けたヒムラーの配下にあるカナリス提督は部下のラードル中佐に「形だけ」の調査を命令する。

そんなときイギリスに潜入しているボーア人スパイ、ジョウアナ・グレイから「チャーチルがイギリスの片田舎スタドリコンスタブルを訪れる計画あり」との報告が入った。カナリスはラードル中佐に「これはチャンスだ、絶対にやり遂げろ」と厳命を下す。「形だけ」と思われていたのが現実となってしまったのだった。

ラードル中佐は作戦を行うのに必要な要員として、ベルリンで保護・幽閉していた元アイルランド共和国軍(IRA)歴戦の工作員(いわゆるテロリスト)リーアム・デブリン、そして最も危険な任務を行うチームとしてクルト・シュタイナ中佐率いる落下傘部隊を選抜した。

クルト・シュタイナ中佐は伝説の落下傘部隊の隊長であったが軍務に背き名も知らぬユダヤ人の少女を助けたかどで部隊ごとチャネル諸島に送られ、人間魚雷の操縦をするという過酷な任務に就かされていたがそこから抜擢されたのだった。チャーチル誘拐は危険な任務だったため、捨て駒とされたのだ。

そしてチャーチル誘拐への準備が着々と始まっていく。デブリンはイギリスへ事前潜入し情報収集を開始した。ところがスタドリコンスタブルの純朴な少女モリィ・プライアに恋心を抱かれてしまう。

シュタイナ中佐ら落下傘部隊はゲーリケ大尉の操縦によりイギリスへ渡りスタドリコンスタブルへ無事降下しナチス・ドイツへ向け信号を送る。「The Eagle has landed(鷲は舞い降りた)」。

その後彼らはイギリス軍人を装いスタドリコンスタブルに駐留する。そのうち、スタドリコンスタブルの人々との間に親交が生まれ友情が芽生えていってしまうのだった・・・。

その他、闇商人・ガーヴァルド兄弟、ロンドン警視庁のロウガン警部、作戦の監視役として送り込まれたイギリス義勇軍のプレストン少尉、スタドリコンスタブルに左遷されたアメリカ軍レンジャー部隊のシャフトゥ大佐など、さまざまな人々の思惑が交錯する中、作戦成功に向け登場人物たちはそれぞれの役割に従ってそれぞれの任務を果たそうとするのだがだんだんと計画にほころびが生じていく。

そして、運命の日を迎えた・・・

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ジャック・ヒギンズの小説の主人公はたいてい「ロマンチックな愚か者」として描かれる。クルト・シュタイナ中佐も作品内で「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人……そして、ロマンテックな愚か者だ」と評されている。

「ロマンチックな愚か者と」は、損得勘定とは関係なく自分の信じるように、やりたいようにやる者、とでもいえばいいのだろうか。ヒギンズの作品に登場する主人公はドイツ軍の兵士だったりIRAのテロリストだったり、元テロリストだったがMI-6(国内の方のMI-5だったかもしれない)のスパイになったり、とにかくクセが強いのが多い。

この作品、というかヒギンズの作品には敵にも味方にも愛すべきキャラクターたちがたくさん登場する。そして彼らは彼らのおかれた立場上戦わざるを得ない。そうして愛すべき人たちが傷つき死んでいく。

これは勧善懲悪の戦争物語ではない。ヒギンズは魅力的な登場人物たちが定められた運命上仕方なく殺し合い、そして死んでいく様子を描くことによって戦争の愚かさを訴えているのだ。

スタドリコンスタブルの少年が言った「おじさんはどうしてドイツ人なの?どうしてぼくたちの側につかないの?」というひとことが泣かせる。国籍や立場や役割というのは人の命よりも大切なものなのか?平和に共存することはできないのか?ということを問いつつも男たちは戦うことをやめられない。そこにこの物語の悲しさ、そして面白さがあるのだ!

1991年にはヒギンズの長編50作を記念して続編の「鷲は飛び立った」が発表された。同時に、1975年発行時に出版社の意向でカットされた部分を含めた「鷲は舞い降りた~完全版」も発行された。

この作品は1992年に早川書店により発行された『冒険・スパイ小説ハンドブック』で発表された人気投票で、冒険小説部門において1位を獲得している。わたしはこの本をなくしてしまい、都内中の古本屋を探して回ったがみつけることができなかった。新刊ではもう販売されていない。

その後2016年に『新冒険・スパイ小説ハンドブック』が】発売されたのでそれを手に入れた。そのなかでもこの作品は「読まずに死ねるか!」な本として紹介されている。

この本の訳者の菊池光さんはスペンサー・シリーズのロバートBパーカーの訳者としても有名だ。菊池光さんの訳は映画で言えば戸田奈津子さんに近いものがある。「意訳」である。だから会話の調子が心地良いのだ。ハードボイルドに適している、と思った。

とにかくこの、「鷲は舞い降りた」はおすすめです。

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鷲は舞い降りた完全版 (ハヤカワ文庫) [ ジャック・ヒギンズ ]

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ちなみに、原題の“The Eagle has landed”は1969年にアポロ11号が月面に着陸した際、地球への交信に使われたフレーズでもある。着陸船がEagleだったためだ。

また、1976年に映画化もされているが評価は分かれる。マイケル・ケインやドナルド・サザーランドらが出演していて結構ヒットしたらしいのだが、わたしは怖くて見ていない。

感動した原作の映画化で面白かったものは一つもない、というのが理由である。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」はその最たるものであった。原作を読まずに映画だけを見たら少しは楽しめるのかもしれないがそれはもったいない。この作品は絶対に本で読むべきである。

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